イヌの能力と習性-(7)犬の知性

●犬の知性

「犬は利口だ」と言われますが、ハンガリーのエトヴォス・ロダンド大学のアダム・ミクロン博士が率いるチームが、犬の知性についての研究結果を発表しました。

犬は、人の命令や表情、動作に対してとても敏感で、例えば、エサを入れたバケツをふたつ用意しておいて、人がエサの入った方のバケツを指で指し示すと、迷わずそちらのバケツに走ってきます。

同じ実験を、飼い慣らしたオオカミにも行いましたが、すっかり人に慣れているオオカミなのに、犬のようには人の動作に反応しませんでした。

人が長い年月をかけて、指示に従う傾向の強い犬を選択してきた結果、犬は人の指示や動作を手がかりにして行動を起こすようになったと考えられています。

マックスプランク研究所のカミンスキー博士の研究では、200を超えるモノの名前を覚えているボーダーコリーがいると報告されました。

その犬は、初めて名前を聞かされたモノを持ってくるように命じられると、知っている多くのモノの中から見ず知らずのモノを選んでもってくるという「排他律を利用した推理」ができることもわかったのです。

つまり、自分が知っているモノ以外のモノを持って来いと言われたので、「これは自分が知らないモノだから、たぶんこれだろう」と推理して、新しいモノを持ってきたのです。しかも、1週間後にその新しいモノの名前を告げて、持ってくるように命令するとまちがえずにそれを選ぶことができたのです。

このボーダーコリーは、人間の言葉を理解しているように思えますが、実は、犬は人間の言葉を「音」として捉えているだけなのです。どうして人の言葉が犬に伝わるのかというと、「直達」というコミュニケーションによるものだろうという意見があります。

1990年代初頭に、猿の脳内に「ミラー・ニューロン」と呼ばれる「鏡の神経細胞」があることが確認されました。このミラー・ニューロンは、ヒトや犬など社会性の強い哺乳類に存在すると考えられているのです。

例えば、お母さんが舌を出してみせると、智恵もついていない赤ちゃんが同じように舌を出すことは良く知られています。赤ちゃんが意識して母親の真似をしたわけではなく、母親の舌を出す行為そのものが赤ちゃんの目に映った瞬間に、鏡に映るように赤ちゃんの脳内の「舌を出す神経細胞」を活動させ、結果として、赤ちゃんの舌が出たというわけなのです。

人が発する音を聞いて、示されたモノを見た時に、犬の脳内のミラー・ニューロンが同じ動きをすることで、それらを関連づけて理解しているというものです。

●しゃべる犬

犬がワンワンと吠えるのは、人間がしゃべるのに影響を受けたためではないかと言われることがあります。

もちろん、犬は吠えることはできても、言葉をしゃべることはできません。しかし、例外もないわけではありません。

1930年代に米国のメイン州に住んでいたメイベル・ロビンソン婦人の飼い犬、ブルドックのジャクリーンは、およそ20の言葉をしゃべることができたと言われています。

オウムなどが人間の言葉を真似するのとは違って、ジャクリーンは、自分のしゃべる言葉の意味をちゃんと理解していて、それを「したい」のか、「したくない」のかを、はっきりと意思表示したというのです。

外に出かけたい時には、「出して」、楽をしたい時には、「エレベーター」と言ったそうです。

ジョンズ・ホプキンス大学のナイト・ダンラップ教授が、ジャクリーンの喉を調べたところ、通常の犬の発声器官の他に、驚くほど、人間の声帯に似た特別な器官があることを見つけました。

1951年、ウェスト・クロイドンという町のフィールド家で飼われていた生後11ヶ月になる雑種犬のピーターは、ふたつの単語を話して、家族を驚かせました。

ピーターは、フィールド夫人にドッグビスケットをねだる時に、「プリーズ」、そして、脚に巻いた包帯を取り替えて欲しい時には、「マム」としゃべったのです。

フィールド家の子どもたちが、フィールド夫人に何かをお願いする時に、「マム、プリーズ」という言葉を使っているのを聞いて、それがフィールド夫人の注意を惹きつける「魔法の言葉」だと気づいて真似するようになったのではないかと言われます。

●犬の知育

犬の調教師であるアン・ヘッドは、犬の訓練は、コンピューターをプログラミングするようなものだと語っています。

「ごく幼い子犬のうちに、訓練を始めることですね。その段階の彼らの脳は、吸い取り紙のようになんでも吸収します。自然の中で、親犬と一緒にいれば、当然、生き残りの方法を身につけていくでしょう。」

「でも、人間に育てられている場合は、未開拓なままの状態なんですね。ですから、犬たちには、何か考える材料を与えるのがベストです。退屈させておくと、ダメな犬になってしまいますよ。」

動物行動学者のピーター・ネヴィルは、次のように言っています。

「たいていの犬は、オスワリ、フセ、コロガレといった簡単な命令に従うことしかできませんね。ですが、これは、飼い主がそれ以上を教えないからなんです。」

「アメリカの身障者を介護する犬は、少なくとも90種類の命令に従うことができるんですよ。きちんと訓練すれば、できるものなのです。」

「ただ、犬の動作を、ああ、あれは今こう考えているんだな、などと人間にあてはめて考えすぎるのは、失敗のもとですね。もちろん、彼らもシグナルを出しますが、われわれには、彼らが本当のところ、どう考えているのかなんて、わかりませんからね」

●犬のIQテスト(ドッグズ・トゥデイ誌&頭脳集団メンサ)

テスト1.

あなたの犬の好きなオモチャをふたつ用意する。

ひとつのオモチャを犬に渡しながら、短く名前を言い、次にもうひとつのオモチャを渡して、別の名前を言う。

それを5回繰り返してから、ふたつのおもちゃを犬の前に置いて、どちらかひとつの名前を言う。

犬が、すぐに言われた名前の方のおもちゃに飛びつけば、合格。

テスト2.

犬の前にチーズを置き、「チーズ」と犬に言ってから、それを食べさせる。何回かそれを繰り返す。

次に、チーズを置いてから、犬を別の部屋に連れていく。

1分間待ってから、「チーズ」と言って、犬を放す。

犬がもとの部屋に戻って、チーズのところに行けば、合格。

テスト3.

犬にチーズを見せる。犬が見ていない間に、それを隠す。

犬に「チーズ」と言って、チーズを隠した場所の近くで放す。

30秒以内に見つけられれば、合格。

見つけられないうちに興味を失ってしまったら、不合格。

テスト4.

犬をつないで、犬の好物を与える。

次にヒモを結んだ好物を、犬の届く位置に置いて、それを前足でとらせる。

それから、ヒモを結んだ好物を、犬が届かない位置に置く。しかし、ヒモの端は犬の届くところに置く。

30秒以内に、前足でヒモをひっぱって、好物を取れれば合格。

テスト5.

家具を使って、迷路を作る。ゴールに、チーズを置く。

「チーズ」と言って、犬を連れて迷路を進んで、ゴールまで行って、チーズを食べさせる。

次に、「チーズ」と言ってから、犬だけで迷路を進ませる。

どのくらい時間がかかったかで、IQを判断する。

獣医師のブルース・フォーグル氏は、犬のIQテストについて、次のように述べています。

「この種のテストは、大人の犬には、ただの遊びにしかすぎませんが、生後8週間までの子犬には、大変いい訓練になります。こういうテストを繰り返せば、実際、子犬の脳は発達すると思いますよ」

(参考資料)

「ニュースになった犬」 マーティン・ルイス著 筑摩書房刊

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