イヌの脳の発達と性格形成-(2)新生児期

(2)新生児期(誕生から生後12日目まで)

体重が30kgの成犬の場合、その脳の大きさはほぼ100ccと言われていますが、生後1日目の子犬の脳は10ccとても小さいものです。それだけではなく、構造も未完成な状態で、ゼリー状をしています。

ニューロンどうしをつなぐ繊維をカバーするミエリンと呼ばれる脂肪質の鞘(さや)も発達していません。この鞘は、脳の各部位の間の連絡を速めるとともに、神経細胞どうしを絶縁することで、神経を通るメッセージが、隣の細胞の活動にじゃまされないようにする働きも持っているものです。

この時期の子犬の脳は、まだ未熟ですが、脳は学習し始めているので、この時期の体験が後の知能の発達に影響すると考えられています。

生まれたばかりの子犬の行動は、母犬の保護をうながすように設定されています。

生まれたばかりの子犬は、まだ目も耳も働いていませんが、匂いの感覚器官は働いていて、それは子犬の生存にとって、とても大切なものです。

子犬が最初に学ぶのは、母犬の唾液の匂いです。授乳期の母犬は、自分の乳首をよくなめますが、子犬が探せるように、匂いづけをしているのだと考えられています。

子犬は、母乳を飲むために、母犬の唾液の匂いを追って、乳首にたどりつきます。

子犬に人口哺乳しようとして、うまくいかない場合、母犬の唾液を塗りつけると、子犬は喜んでしゃぶりつき、ミルクを吸い始めます。

生後2日目の子犬を、母犬から離れたところに置くと、クーンクーンと鳴きながら、首を左右に振って、母犬の身体を探す行動をとります。

スウェーデンのイングフ・ゾッターマンは、この時期の子犬にだけ備わっている特別な感覚器官があることを発見しました。

それは、鼻の真ん中の割れ目と鼻腔につながる開口部に備わっている「特別な受容体」で、熱(=温かいものから発生する赤外線エネルギー)に反応する器官です。(成犬になると機能が失われるようです。)

子犬は、首を振りながら母犬の温かさを探し、それが見つかると、「熱の道筋」をたどって、母犬のところまで這っていきます。そして、母犬に触れると鳴くのをやめて、その身体にくっついて、丸くなります。

子犬は、母乳を飲むときに、母犬の乳首を、最初は鼻でつつき、しばらくすると前足で押すようになります。その刺激で、乳が出てきて、飲めるからです。これが、子犬が、自分の欲求を伝えるための最初の手段として使う「触覚」です。

触覚という感覚能力には、次の4種類があるとされています。

触圧感覚      (身体の接触を感じる感覚=自分と自分以外の境界線を感じる感覚)

温度を感じる感覚

痛みを感じる感覚

自己受容感覚   (自分の身体の部分がどのくらいの速さで動いているかを感じる感覚)

触圧感覚には、2種類の受容体があります。

ひとつは、「接触受容体」で、皮膚の表面や毛穴の近くにあって、何かに軽く触れたり、皮膚がねじれたり、延びたりすると、この受容体が反応して、その情報を脳に送ります。

もうひとつは、皮膚のもっと深い部分にある「圧迫受容体」です。

人間で例えると、紙の表面のスベスベ感やザラザラ感を指で感じるのは「接触受容体」の働きで、椅子に座っているときに、自分のお尻にかかる体重を感じているのが「圧迫受容体」の働きです。

犬の触覚の感度は、身体の部位によって、違いがあります。

鼻や唇はとても触覚の感度が高くなっていますが、鼻や口吻(こうふん)の周りには、感覚神経がたくさん集まっているからです。

犬には、顔に「震毛」(しんもう)と呼ばれるヒゲが生えています。他の毛とはちがい、ヒゲはもっと長くて硬いものです。ヒゲは、皮膚に深く埋め込まれていて、その毛根には多くの触覚細胞が集まっています。ヒゲは、とても敏感で、空気の流れのわずかな変化も感じ取れると言われています。

犬のヒゲには、それほど重要な役割があるとは思われていないため、顔をすっきりさせるために、ヒゲを切り落としてしまうことも多いようです。

しかし、ヒゲを切られると、犬は自分の周りのものを十分に感じ取れなくなる不安から、ストレスを感じるようになると言われています。

失明した犬が、それまでは、まるで目が見えるように部屋の中を歩き回っていたのに、トリマーがトリミングした時にヒゲを切り落としたとたんに、柱や壁にぶつかったり、水の容器の位置がわからなくなったという事例も報告されています。その犬は、一ヶ月ほどで、ヒゲが元通りに伸びると、スムーズに部屋の中を歩けるようになったそうです。

犬の場合には、触覚情報を処理する脳の領域の40%近くが、ヒゲを含む上アゴからの情報処理のために、使われていると報告されています。

接触と圧力に対しては、犬と人間は同じメカニズムを持っていますが、温度の感じ方は大きく違います。

人間の皮膚には、温かさを感じる受容体と、冷たさを感じる受容体の2種類がありますが、犬には、冷たさを感じる受容体しかありません。

研究によると、犬の皮膚に少し熱いものを押しつけても、ほとんど反応しませんが、熱で皮膚が火傷をすると、その痛みに対しては、反応するのです。その理由は、犬の皮膚が被毛に覆われているためと考えられています。

ですから、冬の寒い時期に、ケージの中に犬用のホットカーペットを入れる場合、必ず、逃げ場を作っておくようにするなど、注意が必要になります。

また、足の裏の肉球には、振動に反応する特別な神経があって、自分が走っている地面の情報を脳に伝える役割を果たしています。肉球と肉球の間には、とても敏感な神経終末が集まっているので、犬が足の裏を触られるを嫌がるのも、そのためだと考えられているのです。

この時期の子犬を、人にさわられたり、なでられたり、温度変化を与えるといった軽いストレスにさらすことは、将来、情緒を安定させる、ストレスに対する抵抗力が増す、学習能力が向上するといった良い影響があることがわかっています。

この時期の子犬には、1日に3分程度さわってやるだけでも、十分に効果があるそうです。

(参考資料)

「犬も平気でうそをつく」 スタンレー・コレン著 文春文庫刊

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